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仕事を引き継ぐことほど難しいものはない

会社を閉めるので仕事を引き継いで欲しい、本当に多い事例なのですが、この引継ぎは本当に難しいのです。

完全に銘板の発注先に困っていてうちにたどり着く場合、仕様や価格などは最初からのスタートになることが多いです。つまりゼロからのスタートです。どこかの会社の引継ぎであってもうちにとっては新規です。

そうでは無い例。今の会社と同じようにやってください。実はこれが難しい、というか、まず無理です。銘板屋さん、印刷も仕上げもその会社独自の方法で製作しており、業界の標準なんてありません。だから、版があっても同じように出来るとは限らないのです。

例えば、外形カットのトンボとか穴。うちは十字トンボで穴は黒丸です。でも、以前引き継いだ会社の版を見るとトンボは左側だけ、穴は版に無し。どうやって仕上げていたか、本当に謎です。ごくたまに金型支給もありますが、ガイド穴がブカブカで位置がズレる、よく分からないカンザシ、どうやって抜いていたか謎だらけです。

またデータ作成も同様の問題があります。うちはすべてでillustratorというソフトでデータ作成しております。フィルムを送ります。一文字変えてください。同じ書体で。それほど難しいものは無いのです。なぜか?うちでデータ作成しているわけでは無いから、書体が分かりません。ゴシック体で!と言われても、ゴシック体って何種類あるか、星の数ほどあります。それを探す時間は何時間もかかりますから、そうであれば、切替の時期に最初から弊社で作成させてもらいたいのです。

特にデータ作成はパソコン上で出来るので、あまり重要視されないことが多いです。でも、他人が作った原稿を上からなぞって同じようにする、それってとても難しいし、とても時間がかかります。その製品が最初に出た時、もしかしたらデータではなく、紙を切り貼りして版を作成していたかもしれません。文字を切り貼りした文字の間隔を0.1mm単位で調整するって、相当な労力です。細かい文字など、0.2mmずれると見栄え変わってしまう。だから、同じようにすることって本当に難しいのです。

時代は変わっているというか、工程も日々変化しております。また、賃金も数十年前からいくら上がっているか?そもそも、以前の水準で人を募集しても集まりませんし、定期的昇給させていかないと、そのうち人は離れていってしまいます。だから、人件費を以前のように抑えることは出来ません。よって、価格も合わせることが難しいケースが多々あるんです。もしすべて同じで引き継ぐんであれば、うちも近いうちに同じ道をたどらなくてならなくなります。それは申し訳ございませんが、私は出来ませんし、もし仮にうちもやめてしまったら、また業者を探さなくてはなりません。それは同じことの繰り返しです。

だから、仕事の引継ぎは安易には出来ないということです。だから、先方の要望とうちの希望、すり合わせしていかないといけません。それはかなりの時間がかかるものです。