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「図面が正」の裏にある現実。コンプライアンスの過渡期に、ものづくりの現場が思うこと。

加速するコンプライアンス重視の風潮

ここ数年、製造業におけるコンプライアンス(法令遵守)への意識は一気に加速しています。下請法の遵守に基づく支払い条件の適正化や、金型の保管料に関する議論など、業界全体がよりクリアな方向へ進んでいるのは間違いない事実です。

また、法律面だけでなく「品質管理」における厳格化も、ここ5〜6年(特にコロナ以降)で一段と強まったと感じています。

「図面こそが、すべての正解である」 これはモノづくりの大原則であり、異論の余地はありません。しかし、現場の実務においては「その図面がどこまで詳細に、実情に即して書かれているか」という、過渡期ならではの繊細な悩みに直面することが増えてきました。

図面の「表記」と「実運用」のあいだで

例えば、銘板に使用するアルミ材のお話です。一般的に銘板で多く使われる材質はA1050PやA1100Pであり、弊社では主にA1050Pを標準として使用しています。

しかし、歴史のある古い図面やお客様の社内ルールによっては、図面に「A1080P」や「A5052P」と、実運用とは異なる材質が記載されたままになっているケースが散見されます。

最近では、見積もり段階で気づいた際には「弊社ではA1050Pで製作いたしますが、図面のご変更は可能ですか?」と確認を入れるようにしており、多くのお客様が快く図面訂正(図訂)に応じてくださいます。銘板は製品全体のなかで言えば基幹部品ではないため、これまでは細かな型番まで変更申請を出すのが手間で、そのまま運用されてきた名残りなのだと思います。

ただ、これをそのままにしておくと、昨今厳しくなっている「環境調査」などの段階になって、「図面の材質と、実際の材質が異なっている」とシステム上で弾かれてしまい、お互いに大変な確認作業が発生してしまうケースが増えているのです。シールの材質表記(PET、地色シルバーなどの書き方)についても、同様のことが言えます。

理想を言えば、使用する材料のメーカー名や型番まですべて図面に明記できれば一番確実です。しかし、仮にメーカー側が材料の品番をマイナーチェンジしただけで、今度はすべての図面を変更申請しなければならなくなるという、別のジレンマも生まれてしまいます。ここが非常に頭の痛いところです。

10年前の図面と「ノウハウ」の開示リスク

一番ハラハラするのは、過去からずっとリピートしている古い図面です。 当時はお互いの「暗黙の了解」で問題なく綺麗に仕上がっていた製品が、10年経った今になって「図面の表記と実際の仕様が違う」と指摘を受けてしまうと、当時の背景を知る身としては、現場で非常に戸惑ってしまう瞬間があります。

今はまさに、昔ながらの「グレー」だった運用の曖昧さを、すべて「白」へと塗り替えていく過渡期なのだと思います。

ただ、すべての仕様を1から10まで完全透明化して図面に落とし込むとなると、別の懸念も生まれます。私たち町工場が長年の試行錯誤の末に導き出した「この材料とこの加工の組み合わせがベスト」という独自の仕様は、ある意味で弊社の知的財産であり、ノウハウそのものだからです。

これらをすべてオープンに開示せざるを得なくなると、他社へ容易に模倣されてしまうリスクを感じるのも、正直な本音です。

ですから、過去の古い図面において実情との細かな不一致が見つかった場合は、ぜひ「実情に合わせた図面の訂正」へ柔軟にご協力いただくか、実用上問題がない範囲であれば、これまでの実績を信じて大らかに見守っていただけると、現場としては非常に救われます。

スピード感とルールのバランス

図面の話以外でも、注文のやり取りにおいて似たような過渡期のジレンマを感じます。

メールで「先行して製作を進めてください」と連絡をいただき、正式な注文書(購買データ)の着信を待っている間に数日が経過してしまう。そうなると、正式に受注した段階では、すでに納期までの猶予がほとんどなくなっている……というケースです。

下請法やコンプライアンスに則れば、「正式な発注書が届くまでは着工しない」のが正しいルールです。しかし、お客様が本当に困っていて、大至急で製品が必要な状況であれば、なんとかして力になりたいと思ってしまうのが町工場の性(さが)でもあります。

万が一、内示段階で製作をスタートして途中でキャンセルになってしまった場合、正式な発注書がないと費用の請求が難しくなるリスクもあります。ルールを守るべきか、お客様への誠意(スピード)を優先すべきか、ここも本当に難しいバランスです。

一緒に、新しい「白」の時代へ

私たちはコンプライアンスを軽視したいわけでは決してありません。むしろ、これからの時代を生き残るために、しっかりと対応していくべきだと考えています。

だからこそ、この過渡期において発生する細かなギャップやジレンマについては、お互いに「現場のリアルな実情」を持ち寄りながら、対話を通じて一つずつ丁寧に解決していければと願っています。

お客様にはお手数をおかけすることもあるかと思いますが、より強固なパートナーシップを築くため、何卒ご理解とご協力をいただけますと幸いです。