「当たり前」が崩壊する現場。なぜ今、職人の廃業が止まらないのか
相変わらず、職人の廃業に関するニュースが多いですね。最近SNSのトレンドにも上がっていましたが、製造業や建設業で職人がどんどん減っています。その結果、この間までできていた「当たり前」の仕事が突然できなくなる。そんなことが、実は日常のあちこちで起きているんです。
では、なぜ職人が減っているのでしょうか? もちろん、職人が担う仕事自体が減少しているという側面もありますが、根本的には「経営的な限界」があります。職人を雇い入れる余力がなかったり、腕を磨くための設備を刷新できなかったりと、事業として継続していくことが難しいという現実があるのです。
■ 高度経済成長期の「価格設定」という呪縛
私が思う町工場界隈の職人さんのイメージは、「とにかく安い!そして品質は最高!」です。職人とは、ごく狭い範囲の技術に特化し、「この加工なら誰にも負けない」というプライドを持っています。だからこそ、驚くほど安い価格で、あっという間に仕上げてくれるのです。
このような「安い価格」は、生産量が圧倒的に多かった高度経済成長期であれば成り立っていました。しかし、今は自動車産業などを除けば、多品種少量生産が主流の時代です。職人さんたちは売上よりも品質にこだわる気質があるため、時代の変化とともに、いつの間にかビジネスとして割に合わなくなってしまったのでしょう。
■ 1万個でも100個でも「段取り時間」は同じ
ここで、なぜ割に合わなくなるのかを具体的な数字で説明します。
例えば、単価10円の部品を10,000個作れば100,000円の売上になります。しかし、100個しか注文がなければ売上は1,000円にしかなりません。 プレス作業などを想像してみてください。金型のセットには時間がかかりますが、一度セットしてしまえば10,000個でも機械が早く仕上げてくれます。問題は、100個しか作らない場合でも、金型の取り付けなどの「段取り時間」は10,000個の時と全く変わらないということです。
本来なら、100個の注文であれば単価を100円くらいに上げてもらわないと採算が合いません。しかし、単価10円を20円に倍増させようとするだけでも、「なぜいきなり倍になるんだ?」とクレームが入ります。そのため、妥協して単価15円くらいで受けてしまう。さらに「海外に頼めばもっと安い」というプレッシャーもあり、適正な値上げに踏み切れないのが実情です。
私の会社では、何年も前から廃業する会社の仕事を引き継いでいるため、以前の価格設定の傾向が手に取るように分かります。これが、現場のリアルな実態なのです。
■ 安さが生む「終わらない悪循環」
そんな採算の合わない安い価格で仕事を受けていると、どうなるか。実は、仕事自体はなくならないのです。理由は簡単で、「他より安いから」です。
しかし、安いから利益が上がらず、設備も刷新できない。品質や技術を向上させる投資もできないのに、安いから仕事だけは続いていく。安いから、発注側も他社に乗り換えられない……。これは、仕事を出す側にとっても受ける側にとっても、完全に「悪循環」です。
そして限界を迎え、「もうやめます!」と廃業を選択する。それを聞いた発注側はパニックになり、慌てて他社で見積もりを取って、現在の適正価格に驚愕するのです。私はそんな場面を何度となく見て、経験してきました。
■ 変わる現場、戻らない職人文化
デフレというマクロ的な背景はありますが、何十年も「コストダウン」を強いてきた発注側の責任は重いでしょう。同時に、それを突っぱねて適正価格を提示できなかった受注側にも、少しは責任があるのかなと思ったりもします。とはいえ、高度な経営感覚まで持ち合わせた職人さんというのも、なかなかお会いしたことがないのですが(笑)。
ここ数年、特にコロナ禍以降は廃業の嵐が吹き荒れ、作る側もだいぶ淘汰されてきました。そのおかげで、無理な低価格競争は減り、少し状況が変わってきた実感はあります。
しかし、一度失われた「職人文化」が復活することは、もうないだろうと感じています。次回は、そんな今の時代に「なぜ新しい職人が育たないのか」、そのもう一つの理由についてお話ししたいと思います。
