カテゴリー

石を避ける技術を学ぶな、石をどかせ。「時間をお金で買う」という経営の転換点。

リーマンショックのトラウマと、偏っていた「コスト絶対主義」

私の経営者としての考え方の根底には、ある強いトラウマがありました。 それは2008年のリーマンショックです。あの大不況を経験した私は、「とにかく会社にお金を残さなければ生き残れない」という強固な防衛本能に囚われていました。

復活した後も自分の役員報酬を極限まで抑え、決算書上の利益(見栄え)を出すことや、内部留保を増やすことばかりに執着していたのです。今振り返れば、当時の私の感覚はかなり偏っていました。

その考えが180度変わる決定的な出来事が訪れました。コロナ禍からの急激な景気回復期のことです。

「残業の爆発」と、時間への無頓着さ

「なんか仕事が増えてきたな……」と思っているうちに、現場の残業が爆発的に増えました。 それまでの私は、外に出ていくお金を削ることばかりに目を奪われ、「時間」というコストに対して完全に無頓着だったのです。

仕事量が会社のキャパシティに収まっているうちは、外注費や設備費を抑えることで何とかなっていました。しかし、キャパを超えた瞬間にすべてが崩壊しました。さらに、当時のスタッフの急な退職や、新しく入った人が定着しないなどの悪循環が重なり、「この設備(やり方)のまま、人のマンパワーだけに頼っていてはもう限界だ」と痛感したのです。

この時、私の中に「時間をお金で買う」という強烈な意識が芽生えました。 スタッフの作業時間を人に依存するのではなく、機械に任せる。そのための設備一新の資金には、一切糸目をつけないと決めたのです。

石を避ける術を学ぶより、その石を一瞬で取り除け

「頑張って手に職をつけよう」――もちろん、それは大切なことです。 しかし、時間をかけて一生懸命に職人技を覚えても、量産型・低単価の時代はもう過ぎ去っています。

「ちょっと自分が頑張れば、外に出るお金を抑えられる」 その作業時間が1回につき1時間だとしても、それを1ヶ月間、騙し騙し続けていれば、その間現場はずっと苦労し続けることになります。これは明確な「時間の無駄」です。

例えるなら、毎日通る道の真ん中に大きな石が転がっているようなものです。 その石をどうやって上手に回避しながら歩くかを習得する(技術を磨く)よりも、お金を払ってその石を一瞬で取り除いた方が、よっぽど生産的です。石が無くなれば、それを避ける技術など最初から不要なのですから。

障壁を避けるために毎日無駄な労力と神経を使うくらいなら、その時間と集中力を「品質向上」や「新しい価値創造」に向けてもらった方が、会社にとってもよほど有益です。

時間は有限なのです。 自分でやれば、確かに外にお金は出ていきません。しかし、作業自体は1時間で済んでも、それを考えて準備するまでに永遠のような時間がかかり、1週間経っても状況が変わらない。であれば、外にお金を払って一瞬で解決した方がいい。そうやって、お金は回していくものなのだと学びました。

経営者の「こだわり」という最後の障壁

こだわりは技術の向上には不可欠ですが、それが強すぎるとかえって成長の障壁になります。今日、銀行の方と話していて、ふとそんなことを考えました。

世の中には、高齢になっても第一線に居座り続けてしまう経営者がいます。「オレが作った会社だ」という思い入れが強すぎるのです。 でも、もう十分稼いだでしょう(笑)。今さら大金をもらっても死ぬまでに使い切れませんし、次の世代に過剰にお金を残しすぎれば、かえって揉め事の原因や、ハングリー精神を奪う結果になりかねません。

自立して自分の足で歩む人生の方が、100倍楽しいはずです。 だからこそ、私はサクッと綺麗に身を引く人間でありたい。自分が一線を退けば、後継者は不必要なプレッシャーから解放され、自由に、やりがいを持って会社を引っ張っていけます。「自分が現役時代にやりたいことをやれなかった」という後悔を抱えている人ほど、次の世代に好きにやらせることができません。だから私は、今のうちにやりたい挑戦を全部やり尽くして、後悔を残さないようにしています。

きっと、後継者に任せた方が会社はもっと良くなります。もし失敗したとしても、それは次の世代の責任(笑)。自由と責任は表裏一体です。

さっさと諦めて、前に進もう

少し話が横道にそれましたが、要するに「こうありたい」と思う姿があるなら、そこへの最短ルートを考えるべきだということです。

最もコアな重要事項だけを社内に残し、それ以外のものは外の力(機械や外部のリソース)に任せる。 時間は有限です。そして、時間をケチらずに綺麗に使えば、それは何倍ものリターンになって返ってきます。

全部を自分一人で抱え込むことはできません。さっさと「諦めること」を諦めて、私たちは次の一歩へ前に進みましょう。