1文字のズレで「見やすいFAX」に逆戻り?主導権なき町工場がEDIデータと泥臭く向き合う方法。
先週から始まりました「中小企業のDX・AI化が進まない3つの壁」シリーズ。 第1回目は、自社の「感覚」をテキスト化する難しさについてお話ししました。
第2回となる今日のテーマは、2つ目の壁である「自社でルールを主導できないもどかしさ」についてです。
現在、多くの製造業で取引件数が増えると「EDI(電子データ交換)」による受発注が主流になります。主にPDFやCSV形式でデータが届くのですが、ここで中小企業・下請け企業にとって大きな問題が立ちはだかります。それは、「製品コードや品番の登録ルールを、自社で決める権利はない」ということです。発注元である大手お客様の登録コードに、こちらが100%合わせるしかありません。
双方で共通の製品コードが一対一でバチッと紐づいていれば、100件でも200件でもCSV一括取り込みで一瞬で処理が終わります。理屈は本当に簡単です。しかし、現実はそう甘くありません。
「文字が見やすくなっただけのFAX」という絶望
お客様のスプレッドシートや発注データと、こちらのシステムの製品コードが「たった1文字」でも異なると、システムはエラーを起こして弾いてしまいます。
スペースの有無、全角半角の違い、ハイフンの位置。これらが1文字違うだけで一括取り込みは不発に終わり、結局は人間が画面を目視しながら手入力で修正する羽目になります。
これでは、紙のFAX注文書がデジタルデータに置き換わり、「文字が綺麗で見やすくなっただけのFAX」を処理しているのと何も変わりません。「データで来ているのに、なぜか手入力している」という、デジタル化の皮を被ったアナログ作業。これこそが、多くの現場で担当者が心を折られるポイントです。
かと言って、下請けの側から大手お客様に対して「御社のこのコード、うちのシステムに合わせてこれに変更してください」とお願いするのは、関係性や手間の面からも極めて困難です。
では、ルールを主導できない私たちはどうしたか。 「相手を変えられないなら、自社に入る手前で仕組み化する」という力技を選びました。
弊社の解決策①:フォーマットの統一と「生成AIによる自作アプリ」
まず、膨大な注文データを一括で取り込むための「自社フォーマット」を1つに固定しました。基準にしたのは、我が社の注文件数の大部分を占める最重要お得意様のCSVフォーマットです。
他のお客様から届くEDIデータ(CSVやExcel)は当然並び順がバラバラですが、「このセルのデータは、自社フォーマットのこのセルへ移動する」という変換ルールを徹底的に作りました。
とはいえ、毎回手作業でコピー&ペーストしていたら意味がありません。そこで私は、生成AI(Gemini)にプログラミングをお願いして、データ並び替え用の「変換アプリ」を自作しました(笑)。
お客様から届いたEDIデータを取り込む前に、この自作アプリを1回カチャッと通過させることで、自動的にデータ配列が我が社の統一フォーマットに整う仕組みを作ったのです。自社に設定権がないのなら、入ってくる直前で正確に整流する。これが受発注DXの肝です。
弊社の解決策②:品番を「原稿のファイル名」にしてすべてを繋ぐ
さらに泥臭い連動を行っています。 お客様のデータに書かれている品番をそのまま自社システムに登録し、エラーが出ないようにした上で、その品番を全く同じ文字列で「原稿データのファイル名」に設定しました。
こうすることで、
お客様の発注データ = 自社の受注データ = 現場の製造原稿(ファイル名)
が、1つの品番コードをキーにして一本の線で繋がります。 先週お話しした超高速検索ソフト「Everything」が1秒でデータを引っ張ってこれるのは、この受発注時の登録段階で、お客様の品番とファイル名を1文字の狂いもなく一致させる「泥臭い作業」を徹底して繰り返しているからです。これをサボると、すべてのシステムが水の泡になります。
最も重要なのは、仕様登録の「テーブル(項目)」定義
もう一つ、システム構築で絶対に妥協してはならないのが、製品の仕様を登録する際の「テーブル(データベースの項目)」の設計です。
ものづくりには無数の「例外」が発生します。しかし、その例外をそのまま放置するのではなく、「材料」「表面処理」など、自分で決めたシンプルな仕様の項目へ強引に落とし込んで、データ形式を統一する必要があります。
このテーブル項目の定義が曖昧なままシステムを作ってしまうと、後から「あのデータどこだっけ?」と探す時に必ず破綻し、莫大なツケを払うことになります。
結論:最初は地獄。でもルールを愚直に守った者だけが勝つ
システム化がいつまで経っても進まない会社は、この「コードのすり合わせ」や「テーブルの定義」といった面倒な部分を曖昧にしたままツールを入れてしまいます。その結果、エラーを吐き出すシステムに嫌気がさし、「やっぱり紙の方が早い」「台帳を見ないと分からない」という過去の悪習に逆戻りしてしまうのです。これこそが究極の時間の無駄遣いです。
立ち上げの初期は、信じられないほど大変でエネルギーがいります。 しかし、自分で決めたルールを信じて愚直にデータを回し続けていくと、ある日を境に驚くほど後々の実務が楽になります。最初の一歩を踏み出し、ルールを維持し続ける継続力。それだけがDXを本物に育て上げます。
次回はシリーズ最終回。 人手不足と廃業の危機に直面する前に知っておくべき、「③ コストメリットの落とし穴」についてお届けします。
今週も本当にお疲れ様でした。皆様、素晴らしい週末をお過ごしください!
