「はい、はい」と聞くのは自首を絞めること。言えない現場が生む「負の連鎖」と、町工場の本当の面白さ。
無理な要求に「はい」と言い続けるリスク
モノづくりの3本柱である「QCD(品質・コスト・納期)」。 お客様の要求に応えることはもちろん大切ですが、言われたことすべてに「はい、はい」と従っていては、自分で自分の首を絞めることになります。
近年、下請法などの法整備が進み、一昔前に比べて下請け側からも意見や交渉が言いやすい環境が整ってきました。問題は、私たちが「言うべきことをきちんと言えるかどうか」です。
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コスト: インフレの今だからこそ、適正価格への交渉を逃さず行うべき。
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品質: 過剰な外観要求に対し、「ここまでは許容範囲として受け入れてほしい」と現実的な相談をするべき。
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納期: 昭和のように徹夜で仕上げる時代は終わりました。物理的に無理なものは「できません」と言うべき。
私の肌感覚ですが、大手メーカー様とダイレクト(直接取引)でお仕事をしている場合、事情を誠実に説明すると案外スムーズに理解していただけます。直接の決裁者とコミュニケーションが取れれば、同じ人間同士、「なるほど、それならこの仕様でいきましょう」と納得し合えることがここ数年で一気に増えました。
話が進まないのは「間に人が挟まっているとき」
一方で、最も話が進まず、現場にしわ寄せが来るのは「発注元と自社の間に、いくつもの中間業者が挟まっているとき」です。
理由は至ってシンプルで、中間にいる人たちが「責任を取りたくないから」です。
自社でモノづくりをしておらず、工場に直接足を運んだこともない中間担当者は、現場で何が起きているかの判断ができません。トラブルが起きたとき、現場の味方になって交渉するよりも「これは不良品です!」と工場側に弾いてしまう方が、自分としては一番楽で安全だからです。
例えば、私たちが日常的に戦っているアルマイトの色調整や、シルク印刷の微細なゴミ・カスレ。 これらを100%完璧に防ぐとなれば、半導体工場のようなクリーンルームを建て、完全一致の塗料と膜厚を揃える必要があります。そんなことをしたら、製品価格の桁が一つ跳ね上がってしまいます。
そうした現場の苦労や限界を最終ユーザーに直接伝えると、「なるほど、そこまでのコストをかける必要はないから、今の仕様で受け入れます」と話が通ることがほとんどです。だからこそ、私はできる限り「直接取引」をしたいのです。
「伝票だけ送って」の中間業者に伝えたいこと
あえて厳しいことを言わせていただくなら、間に挟まっている業者の方々には、もう少し「作る側の立場」に立ってほしいと思う場面が多々あります。
「商品は工場から直接客先に送っておいて! 伝票だけこっちに送って!」 私は正直、こういう丸投げの注文があまり好きではありません。少しでも利幅を取って商売をしているのであれば、一度でも自分の目で現物を見るべきですし、クレーマーのような要求が来たときに「右から左」へ工場へ流すのではなく、クッションとなって交渉するのがその人の果たすべき責任だと思うのです。
言うべきことを言えず、しわ寄せをすべて一番下の町工場に押し付け続けると、どうなるか。 今は昔と違ってサプライヤー(職人)の数が激減しています。我慢の限界が来たとき、ある日突然「もうその仕事は作りません(作れません)」と撤退され、一番困るのは発注側です。
ネットで安い工場を探して見積もりを取り、「あっちが安いから変えよう」とコロコロ乗り換えるような浅い付き合いをしていると、いつか重大な大事故を引き起こします。銘板一つとっても、アルマイト、エッチング、シルク印刷など、各社が得意とする領域は非常に細分化されており、現場を知るプロにしか見抜けない相性があるからです。
20年以上この世界にいて、つくづく思うこと
私が求める「一歩踏み込んだ付き合い」とは、何も飲み会に行くことではありません(笑)。 実際に町工場へ足を運び、直接工場を見学し、現場の苦労や構造を理解することです。単発の価格比較ではなく、たまの失敗はお互い様でカバーし合えるような、長期的なパートナーシップを築くことです。
私はこの世界に20年以上いますが、今でも工場同士の付き合いや職人たちの世界が本当に面白くてたまらないのです。
「そこまで細分化してこだわっているのか!」 「この機械の部品、だから右じゃなくて左についているのか!」
現場に足を運ぶたび、職人や機械メーカーの生々しい工夫や情熱に触れ、新しい気づきとも出会えます。
だからこそ私は、右から左へ伝票を流すような無機質なビジネスではなく、現場の匂いを感じながら、お互いにリスペクトし合える「どっぷり深い、長期的なお付き合い」をこれからも大切にしていきたいのです。
今週もお疲れ様でした。皆様、良い週末をお過ごしください!
