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属人化からの脱却。AIと機械化で実現する「令和の職人」への道

前回は、「なぜ今の時代、新しい職人が育たないのか」という厳しい現実についてお話ししました。反復練習の場を失い、失敗も許されない。そんな環境で、これまでと同じやり方の教育はもう通用しません。

では、私たちはどう対策を講じるべきか。今回は、私が実践している「数値化・機械化・IT化」による、職人技への依存を減らす具体的なアプローチについてお話しします。

■ 昭和・平成・令和:穴あけ作業に見る「技術の進化」

町工場の仕事は、かつては「量」と「時間」をかけ、スパルタ教育で体に叩き込むのが当たり前でした。しかし今の時代、それは無理です。そこで必要になるのが、属人化をやめ、標準化・マニュアル化を徹底することです。

例えば、弊社で行っている「プレスの前工程(ガイド穴あけ)」を例に挙げましょう。

  • 昭和(ケトバシの時代): 「ケトバシ」と呼ばれる足踏み式プレス機を使い、φ2mmの小さな黒丸を目で見て、狙いを定めて足で踏む。まさに「ガイド穴あけ職人」の世界です。極限の集中力を要する目検討のアナログ作業でした。

  • 平成(基準穴あけ機の登場): カメラとモニターがつき、黒丸をモニターの中央付近に持っていけば自動でセンタリングして穴をあけてくれるようになりました。精度は劇的に上がりましたが、常に板を動かす「手」が必要でした。

  • 令和(自動化の完成): 今では、手で動かす作業を機械に記憶させ、勝手に動いてくれるようになりました。もちろん自動センタリング機能付きです。作業スピードは、昭和の時代と比べて5〜10倍は早くなったと感じます。

■ 「都内の狭い工場」でもできる投資がある

「そんな高価な大型機械は入らない」という声も聞こえてきそうですが、今の時代、都内の狭い工場に収まるサイズで、かつ未経験者でも扱える優れた装置はたくさんあります。

実際、弊社の「穴あけ作業」は今、小型の油圧プレスで行っています。これにより、製造業未経験で入社した27歳の女性が、難なくステンレスの穴あけをこなしています。

また、金属カット(シャーリング)も、かつての足踏み式から、空圧・油圧式のペダル操作に変えました。これにより、工場未経験の24歳の女性が、厚さ2.0mmのステンレスを軽々と切っています。 これらは決して安い投資ではありませんでしたが、これからの時代を生き残るために必要不可欠な投資だったと確信しています。

■ マニュアルの先にある「機械操りの職人化」

ただし、誤解してはいけないのが「マニュアルを作れば全員同じになる」わけではないということです。 機械化を進めても、人には個性があります。目が良い人、マルチタスクが得意な人、一つの作業に深く没頭できる人……。マニュアルを作っても、100点満点のコピー人間は作れません。

だからこそ、次に生まれるのは「機械操りの職人化」だと私は思います。リーダーの役割は、個々の特性を見極めながら、パズルのように適材適所を調整していくことにあります。

■ 「技」を「情報」としてAIに託す

職人のすごさとは、単なる肉体的なアドバンテージではありません。実は、職人の頭の中にある膨大な「情報」こそが技の正体です。 かつては頭の中に秘匿されていたその情報を、テキスト、画像、動画として残し、「見える化」して共有する。そうすれば、誰でもかつての職人に近い動きができるようになります。

ここで威力を発揮するのがAI(人工知能)です。 これまでは情報を体系的に整理するだけでも大変でしたが、今はクラウドに放り込んでおけばAIが整理・分析してくれる時代。職人の経験知とAIは、実は最高に相性が良いのです。これこそが、これからの「令和の職人」の姿ではないでしょうか。


次回はいよいよ最終回。 機械化とAIで多くのことが解決できる一方で、どうしても代えがきかない「職人の危機管理能力」や「五感」といったアナログな本質についてお話ししたいと思います。