オペレーターには越えられない壁。トラブル対応に見る「職人の真の価値」とは
全4回にわたってお送りしてきた職人シリーズも、今回がいよいよ最終回です。 前回は、属人化を減らすための「数値化・機械化・AI活用」についてお話ししました。しかし、どれだけデジタル化を進めても、どうしても自動化できない、そして人間が担い続けなければならない領域が残ります。
今回は、これからの時代にこそ求められる「職人の本当の価値」についてお話しします。
■ デジタルが及ばない「違和感」への察知力
機械化を進めれば、誰でも一定の品質でモノが作れるようになります。しかし、予期せぬトラブルが起きたとき、機械やマニュアルは無力です。そこで差が出るのが、職人の「危機管理能力」と「トラブル対応力」です。
これは、何度も失敗を繰り返し、苦労してきた経験から生まれる「直感」に近いものです。
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「音」: 「あれ、いつもと違う音がするな」という微かな異変。
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「におい」: 「なんだか変なにおいがする。溶剤を間違えたか?」という予感。
これらはデータ化が極めて難しい、五感を通じたアナログな領域です。この「なんかおかしい」という違和感に気づき、最善の対処法を瞬時に導き出せること。これこそが、単なるオペレーターと職人を分ける決定的な境界線なのです。
■ 「一筋縄ではいかない」色の世界
もう一つ、デジタル化が難しいのが「色の調整(調色)」です。 弊社で扱う銘板は、紙への印刷とは条件が全く異なります。ベースとなる材料がシルバーなどの金属であるため、紙の上で再現できた色が、アルミの上では全く違う色に見えてしまうのです。
「この微妙な青を出すには、あえてもう少し黄色を足そうか」 こうした判断は、一朝一夕で身につくものではありません。金属の特性を知り尽くし、何度も試行錯誤を繰り返してきた職人だけが持つ「知恵」の積み重ねです。
■ 職人を育てるために、会社が投資すべきこと
こうしたアナログな技術や直感を身につけるには、どうしても「時間」が必要です。 現代の効率重視の社会では、この「時間」をどう確保するかが最大の課題になります。
私が経営者としてやるべきだと考えているのは、「職人が長く、安心して働ける仕組み」を構築することです。 待遇面はもちろんですが、清潔な職場や、例えば「トイレがいつも綺麗である」といった細かな環境作りも欠かせません。居心地の良い環境があって初めて、人は「ここで腰を据えて技を磨こう」と思えるのではないでしょうか。
■ デジタルは、アナログな時間を生み出すためにある
大量生産の時代が終わり、一滴のムダも許されない今。 デジタルで置き換えられる作業は、どんどん機械やAIに任せるべきです。それは決して人間を排除するためではなく、「時間がかかるアナログな技術の習得」に充てる時間を生み出すためです。
ルーティンワークを機械に任せ、人間はより高度な、より感性を求められる「本質的な仕事」に集中する。
「職人の技」と「最新のデジタル技術」が手を取り合うことで、日本のモノづくりはもっと強く、面白くなっていく。私はそう信じています。
