【シリーズ最終回】なぜ1000万の機械は買えても、見えない「時短」には投資できないのか?製造業DXを阻むコストの罠。
3回にわたってお届けしてきた「中小企業でDX・AI化が進まない3つの壁」シリーズ。第1回の「定義付けの難しさ」、第2回の「主導権の壁」に続き、最終回となる今日のテーマは、最も現実的な「コストメリットの落とし穴」についてです。
ここでのコストとは、単にお金の話だけではありません。費やす「時間」や「労力」、そしてそれに対する「見返り(効果)」のバランスをどう捉えるかという、経営者の価値観の壁でもあります。
多くの小規模企業において、「アナログのままでも、自分を含めた数人の給料分くらいは何とか回せてしまう」というのが現実です。だからこそ、これからお話しするコストの罠にはまり、途中で諦めてしまう会社が後を絶ちません。
壁そのもの:「外注の絶望」と「自作の挫折」
いざ「社内をデジタル化しよう!」と一念発起したとき、経営者の前には2つのルートが現れますが、そのどちらにも険しいトラップが仕掛けられています。
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ルートA:専門業者へ外注する 専門のIT業者に見積もりを取ると、腰を抜かすようなとんでもない金額が提示されます。「えっ、そんなにするの…」と絶句しつつも、意を決してプロジェクトをスタートさせる。しかし、第1回・第2回でお話しした「最初の定義付け」や「コードのすり合わせ」という泥臭い実務フェーズで現場が躓き、結局システムが完成する前に途中で諦めてしまうケースです。
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ルートB:自分で作ろうとする(ノーコードやAIの活用) 「今はAIを使えば簡単にアプリが作れるらしい」と聞いて、自分でやろうと試みるルートです。しかし、いざ始めてみると聞き慣れない専門用語が次々と飛び出してきます。思ったようにAIが言うことを聞いてくれず、プロンプト(指示文)の難しさに直面し、「やっぱり無理だ」と匙を投げてしまうケースです。
どちらのルートを選んでも、最初にやってくるのは「多大な金銭的・時間的コスト」です。その割には、苦労に見合った効果がすぐには目に見えて現れません。その結果、「これ、本当にやる意味あるのか?」とモチベーションが失われてしまうのです。
製造業の習性:「直接メリット」は大好物だけど……
特に私たち製造業には、独特の「罠」があります。それは、モノを作るための設備投資が大好きだということです。
例えば、「今まで10分かかっていた切削加工が、この最新マシンを導入すれば半分の5分に縮まります!」と言われれば、何千万円する機械であってもメリットが非常に分かりやすいため、前向きに投資を決断できます。
一方で、DXやAI化がもたらすメリットは、どれも「間接的なもの」ばかりです。 データを入力する手間を減らす、図面を探す時間を無くす、受注処理の重複を無くす……。これらは、機械のように目の前で火花を散らしてモノを削ってくれるわけではないので、どうしても価値を実感しづらいという面があります。
「加工の1分」も「探す1分」も、全く同じ価値である
しかし、冷静に考えてみてください。 「何かを探す時間」や「段取りの手間」といった目に見えない間接コストは、モノ作りの現場で見落とされがちですが、投入されている「時間」という普遍的な物差しで測れば、機械を動かしている時間と全く同じ価値を持っています。
以前のブログでも少し触れましたが、どんなに熟練の職人が超人的なスピードでプレス作業をこなしたとしても、その後の検査やデータ照合にものすごい時間がかかってしまっては、製品が出荷されるまでのトータルの時間は何一つ変わりません。多品種少量生産をメインとする現代のものづくりにおいては、この「間接時間のロス」の割合が特に顕著に跳ね上がります。
最新の機械で削る時間を5分短縮することに心血を注ぐのであれば、日々の業務の中でドロドロと溶けていく「無駄な間接時間」を5分短縮することにも、全く同じだけの情熱とコストをかけるべきなのです。
結び:ゴールを細かく刻み、将来の時間を買いに行く
デジタル化の立ち上げ初期に奪われるあの泥臭い時間は、決して無駄なコストではありません。それは、「将来の圧倒的な時短」を前払いで買いに行っている投資なのです。
「すぐに効果が出ない」と焦ってしまうのは、あまりにも遠くのゴールばかりを見つめているか、あるいは最初の定義付けが曖昧なまま一足飛びに進もうとして、足元で躓いているからかもしれません。それはツールのせいではなく、設計した自分自身の焦りが原因であることが多いのです。まずは小さな業務フローの改善から、ゴールを細かく刻んで成功体験を積み重ねていく必要があります。
これからさらに深刻化する人手不足、そしてサプライヤーの減少は避けて通れない確定事項です。たとえ市場全体のパイが縮小したとしても、この泥臭い作業をやり抜いて筋肉質な体制を作った企業だけが、残された市場を生き残り、パイを総取りできます。
2000年代のインターネット黎明期にいち早くホームページを開設したあの時の既視感を信じて、私はこれからも、この目に見えない「時間」への投資を、誰よりも泥臭く主導し続けていきます。
3回にわたるDXシリーズにお付き合いいただき、ありがとうございました。
今週も本当にお疲れ様でした。皆様、素晴らしい週末をお過ごしください!
