銘板の「書体」選び
今日は火曜日。技術のお話です。 普段は製造現場のリアルな実態をお伝えしていますが、今回は少し毛色を変えて、銘板の「書体(フォント)」について深掘りしてみようと思います。
銘板作成のスタートは、まず原稿作りから始まります。Adobe社のIllustratorを使用して作成しますが、お客様からデータを支給いただくこともあれば、弊社でゼロから原稿を作成することも多いです。
よく使われる書体は、大きく分けて「角ゴシック体」「明朝体」「丸ゴシック体」の3つ。
「文字の大きさ」よりも大切なこと
私が原稿を作成する際、最も神経を使うのは文字の大きさではありません。 「文字を構成する一本一本の線の細さ」です。
紙への印刷とは違い、金属に文字を刻む銘板の場合、極端に細い線は製造過程で消えてしまったり、うまく再現できなかったりすることがあります。
ここで重要になるのが、書体の特徴です。
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ゴシック体: 縦横の線の太さがほぼ一定。
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明朝体: 縦線は太いが、横線が極端に細い。
この「横線の細さ」が、製造方法によっては大きなハードルになります。
印刷とエッチング、それぞれの限界
製造方法によって、再現できる線の細さは異なります。
1. アルマイト印刷(アルミ) おおよそ「0.1mm」くらいの細い線まで再現可能です。そのため、明朝体であってもそれほど神経質にならずに製作できます。
2. エッチング(金属を溶かす加工) 問題はこちらです。エッチングは薬品で金属を溶かすため、線の太さが仕上がりに直結します。
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文字凹(文字を凹ませる場合): 黒い部分(文字)を溶かします。だいたい「0.15mm」以上の太さがあれば綺麗に彫れますが、0.1mmを切ると細すぎて薬品が反応しきれず、うまく彫れないことがあります。
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文字凸(文字を浮き出させる場合): これが一番の難所です。文字以外の周囲を溶かすのですが、この時、文字自体も横から少しずつ溶かされ「痩せて」しまいます。そのため、文字凸の場合は最低でも「0.3mm」程度の太さを目安に設計します。
「ベタ面積」が広いと、文字はさらに痩せる?
さらに技術的な話をすると、デザインによっても「痩せ具合」が変わります。 例えば、背景が広い「黒ベタ」のデザインだと、凹ませる面積が広いため、より深く彫る必要があります。なぜなら、深く彫らないと後の工程で表面を研磨(磨き)する際に、砥石が凹んだ部分にまで当たってしまい、色が剥げてしまうからです。
しかし、深く彫れば掘るほど、文字の側面も削られてさらに痩せていく……というジレンマがあります。
だから「0.01mm」の調整を欠かしません
お客様からよく「どのくらいの文字サイズまで大丈夫?」と聞かれますが、実は即答できないのが本音です。
なぜなら、選ぶ書体や文字の内容、さらに「凸か凹か」によって、製作の可否が変わるからです。だからこそ「具体的なデータを一度見せてください」とお伝えするようにしています。
支給いただいたデータであっても、実はそのまま作ることは稀です。 「あ、この明朝体だと横線が消えそうだな」と判断したら、こっそり0.03mmだけ線を太らせるといった微調整を行っています。
0.01mm単位の、目には見えないようなわずかな調整。 これが、最終的な仕上がりの「読みやすさ」と「美しさ」を左右する、私たちのこだわりなんです。


